潜在意識と顕在意識

 OPENERS第3回目です!

 受講者さんからの感想も届いています。

  • 嘔吐恐怖症はパニック障害に近いということは初めて知りました。そして、そう分かってホッとしてる自分がいます。
  • 嘔吐恐怖症は珍しいものではない事が分かりました!
  • 一人の食事でも体調が悪くなってしまうことに疑問を抱いていました。しかし今回の講義を読んでものすごく腑に落ちました。

 これらは素晴らしい気づきですね。嘔吐恐怖症というのは、会食恐怖症という社交不安障害の側面もあり、電車に乗りにくくなるというパニック障害の側面もあったりします。複数の不安障害の症状を横断しているので、何か特異な症状に思えてしまいます。

 会食恐怖症・パニック障害のそれぞれに有効な方法が、そのまま嘔吐恐怖症にも有効なのです。

 いろいろな不安障害の側面を持っていると、取り組まなければいけない事も多くなるのでは?と思われるかもしれません。確かに「たった一つの方法」だけで嘔吐恐怖症を乗り越えるのは難しいかもしれません。

 ですが会食恐怖症にしろ嘔吐恐怖症にしろパニック障害にしろ、特定の不安障害 ”だけ” に有効な心理技術というものはありません。これらの改善に有効ないろいろな方法に取り組む事で、不安との上手に向き合えるようになったり、人間関係が良くなったり、自分を大切にできたりと、「人生の質そのもの」も必ず一緒に高まっていきます。ですから時間をかけて取り組む価値がありますね!

 このOPENERSでは皆様にどんどん視野を広げて人生自体を良くして頂けるような講義をしていきますので、お楽しみに!

 またワークや講義の感想を送って頂く事は、ご自身にとっても今の状況や考えを整理するために役立つと思います。是非積極的に取り組んでみて下さいね!

 さて、本日は「潜在意識と顕在意識 」についてお話したいと思います。

 この話はとても重要です!恐怖症のカラクリを解き明かしていくカギにもなります。結論を先に述べると、恐怖症の原因は潜在意識であり、克服方法も潜在意識にアプローチしていく事にあります。皆様は「潜在意識」や「顕在意識」と言った言葉を聞いたことはありますでしょうか?

 意識とは普段私達が何かを認知して、次の行動を決めるまでに働く思考のようなものですが・・・実は この意識には「潜在意識」と「顕在意識」の 2 種類があります。

 普段私たちは後者の顕在意識を認知することができます。何かを認知し、判断し、⾏動する際に言葉としてはっきり意識できるものです。顕在意識=思考と言っても良いでしょう。例えば「明日会食があるけど→ 気持ち悪くなったら嫌だな→⾏かないようにしよう」という様に。これ以外にも一日に何千という判断を、顕在意識の中で行っているいるのです。

 私達はこの顕在意識が全てであり、顕在意識をコントロールして行動を決めている・・・と思い込んでします!実は私たちの行動を決めているのは、顕在意識ではありません。

 潜在意識は私たちが心の奥底に持っている意識です。言葉にすることができないので、私たちがそういう意識を持っていることに気づくのはなかなか難しいですが、行動を決定する際の源になっている意識です。例えば嘔吐に恐怖に感じるのもこの潜在意識が、「嘔吐は怖いものだ」と意識しているからなのですね。

潜在意識が意思・行動を決める

 この「潜在意識」と「顕在意識」ですが、その⼒には大きな差があります。なんと潜在意識は顕在意識の何万倍も⼒があると言われています。つま
り我々の本当の意思や⾏動を決めるのは潜在意識の方なのですね。この話を聞いても、まだ自分の中に潜在意識なるものが存在することが実感できないですよね?それでは一つ実験をしてみましょう。

 今から全力で「りんご」を怖がってみましょう。「りんごは恐ろしい!」「りんごは危険だ!」「もうりんごの事は考えたくない!」こうした言葉を心の中で唱えてみましょう。さていかがでしょうか?少しでもりんごが怖くなってきたでしょうか?

 ならないですよね!

 これはいくら私たちの顕在意識、つまり意識できる思考の部分でりんごを怖がろうとしても、りんごが怖くなることはありません。なぜなら潜在意識が「いや、りんごは美味しくて栄養満点だよ。何も怖いもんか」を意識しているからなのですね。私達はりんごで怖い思いを今までした経験が無いため、顕在意識はもちろん、潜在意識の部分にまで「りんごは怖くない」という意識が浸透しているのです。

 ですからいくら顕在意識の部分でりんごを怖がろうとしても絶対に怖くなれないわけです。潜在意識が意識と行動を決めているので、潜在意識が変わらない限りは、りんごが怖くなることはありません。

 では今度は逆バージョンを行ってみましょう。今から全力で会食恐怖症・嘔吐恐怖症を怖がらないようにしてみましょう。「私は会食恐怖症じゃないよ」「嘔吐恐怖症は完全になおったよ」「もう今後恐怖症について考えることはないよ」「恐怖症とは無縁の完璧な人生を送るよ」こうした言葉を心の中で唱えてみましょう。さていかがでしょうか?少しでも安心できましたか?

 できないですよね!

 ポジティブな言葉を唱えても、心の底では大きな反発があったのではないでしょうか?「こんな言葉を唱えて治るなら苦労しないよ・・・」という反発がありますよね?これは潜在意識が「会食や嘔吐は怖いものだ」と意識しているからなのですね。潜在意識と真逆の言葉を顕在意識で唱えても、すぐに潜在意識は反発します。「いやいや~、何言ってるんだよ。会食や嘔吐は怖いものだよ!以前それで怖い思いをしたじゃないか。会食や嘔吐は怖いから回避しないとダメなんだよ!」・・・とこんな感じですね。

 つまり私達が会食恐怖症・嘔吐恐怖症を克服していくにはこの潜在意識を変えていく必要があるのですね!潜在意識が「会食や嘔吐は怖くないや」となる方向に持っていきたいわけですね。また潜在意識が原因なら、顕在意識つまり自分の意思の力だけで恐怖症をコントロールするのは不可能という事です。

潜在意識の持つ力

 もし意識が顕在意識だけで、それが全ての行動を決めているなら全て思った通りに行動できるでしょう。嘔吐恐怖症なら会食が苦手な方も多いでしょうが「自分は会食が好きだ!」と考え直せばいいだけの話です。そのまま不安無く会食に行けるでしょう。

 しかし実際はそうではありません。「自分は会食が好きだ!」と口に出したところで、それを覆すような言葉が心の底からたくさん沸き上がってきたのではないでしょうか?「いやいや・・・会食は怖いよ」「気持ち悪くなったらどうしよう・・・」これが潜在意識が「会食は怖いものだ」と反発しているという事なのです。どんなに顕在意識でポジティブな言葉を言い聞かせても、潜在意識が反発すると、実際に恐怖を感じる・症状が出ることにつながっていきます。

 これまで繰り返し述べてきたように、人間はネガティブ感情を持つのが自然ですから、こうした潜在意識の反発を完全になくすことはできません。しかし潜在意識が完全にネガティブ感情に染まっていると、この反発も非常に大きくなり、不安も増してしまいます。

 逆に言えば潜在意識をポジティブ感情で染めてあげれば、顕在意識でいくらネガティブな言葉を考えても、実際にはそれほど不安にはなりません。

 やる前は緊張していたけど、本番は全く緊張しないでやれた︕みたいな経験はないでしょうか︖あれは 顕在意識で「お前には無理だ」とか「失敗したらどうしよう」みたいなことを考えていても、本番中は潜在意識の楽しもうとする力が勝っているからなのですね。

 会食も同じです。私たちは「残したら人に何か言われるよ」「気持ち悪くなったらどうしよう」といった顕在意識が発する言葉を止めることはできません。こんな風に考えてはいけない︕と思うことこそ考えてしまうものです。ですが潜在意識が「いや残しても大丈夫だよ」「気持ち悪くなっても何とかなるよ」と意識していれば、どんなに不安な言葉や場面を考えたとしても、実際にはそれほど不安にはならず、症状も出にくくなるというわけです。

 私達の行動や、嘔吐恐怖症の症状が出るかどうかも全て潜在意識が決めているのです。顕在意識はその潜在意識の意思決定に、適当な理由をつけて肯定したり否定したりするだけの役割でしかありません。

 なんだか私達が普段考えている事が、自分の本当の意識を反映したものではない、と聞くと変な感じがしますよね?ですがこの感覚は後々重要になりますので、しっかり覚えておきましょう!この潜在意識をしっかり乗りこなしていきましょう!

潜在意識を変えていく

 克服にはこの「潜在意識」を変えていくことが重要になるわけですね︕それでは潜在意識を変えるにはどうすればいいのでしょうか︖普段私達が意識することのできない潜在意識ですが、それを変えていく方法は2つあります。

  • 敢えて苦手な場面に挑戦すること
  • 普段自分にかけている言葉を変えること

 これからこの2つの方法について説明していきます。潜在意識を変える方法が2つある、ということは嘔吐恐怖症の克服も大きく2つのアプローチがあるという事ですね。

苦手な場面に挑戦する~認知行動療法

 まず一つ目の「敢えて苦手な場面に挑戦すること」は会食が苦手な人で言うところの「実際に会食に⾏く練習」に相当します。 顕在意識が「残したら人に何か言われるよ」「気持ち悪くなったらどうしよう」という言葉をかけてきても、実際の会食は大丈夫だった︕という経験をすると潜在意識は「なんだ、会食って簡単だな」という意識に変わっていきます。

 こういう経験は皆様も多いのではないでしょうか?慣れない環境でも、時間が経てば抵抗がなくなりますよね?これは潜在意識が適応したということです。

 この「実際に会食に⾏く練習」というのが、いわゆる「認知行動療法」と呼ばれる治療法ですね。嘔吐恐怖症だけでなく、パニック障害やその他の不安障害の治療にも幅広く用いられています。

 簡単に言えば、自分が「苦手だな~怖いな~」と思っているような場面・・・嘔吐恐怖症なら会食や食べた後に電車に乗ることなどですね。こういう場面に実際に挑戦して不安や恐怖を緩和していく治療法です。もっと簡単に言えば「場慣れする」という事ですね。

 人間はある恐怖の対象を避ければ避けるほどに、その恐怖が強化されていきます。普段から会食を避けていると、急に避けられない会食があるときに大きな恐怖を感じてしまう事になります。そして恐怖が大きくなる程、チャレンジもしにくくなりますから、また避けてしまうという負の連鎖が起きてしまうわけです。有名な漫画のセリフに「今日逃げたら明日はもっと大きな勇気が必要になるぞ」という言葉がありますが、こういうことですね。

 ですがいきなり自分の苦手な場面に飛び込むのも大変ですから、「スモールステップ」で進んでいくというのが基本になります。

 例えば外食がどうしても苦手なら、まずは「お店の前まで行っておいしく食べている姿を想像する」みたいなステップでも良いのです。電車が苦手なら「駅まで行って電車に乗れている姿を想像する」でも良いのです。そこから「お店に入る」「飲み物だけ」「軽食だけ」「敢えて残す練習をする」という感じで自分でステップを組み立てていきます。

 私の場合、大学生の頃はとにかく学食で食事をとるというのが非常に困難でした。しかし早くから避けるほどに恐怖が大きくなることが分かっていたので、とにかく避けないようにだけはしていました。とはいえ、学食で食べられるものがありません。最初はコンビニでパンを一つだけ買って、それを食べているフリをしていましたね。最初はパン半分だったのですが、そこから徐々に難易度を上げていきました。

 パン半分 → おにぎり1個 → パン1個 → かけそば → きつねそば → きつねうどん → ラーメン → おにぎり2個 → ご飯とおかず一品 → カレー → 親子丼 → ご飯とおかず二品 → カツカレー

 みたいなステップを踏みました。こうしてパン半分からカツカレーを食べるまでに、これだけのステップを踏んだわけです。ですが、こうして細かく分けることで、着実に成長を実感できましたし、調子を落とした時も何だったら食べられるか?が自分の中で良く分かっていました。時間をかけた分だけ、調子も落としにくくなるわけです。

 ここまで簡単に認知行動療法について説明しました。OPENERSでは中盤で、実際に皆さんが自分専用の認知行動療法を作成するコンテンツも用意しています。自分がどういう挑戦をこれからしていけばよいか分かるようになります!

苦手な場面に挑戦する~暴露療法

 認知行動療法は「吐くのが怖くて会食ができない」(吐いたらどうしようタイプの会食恐怖症)・「吐くのが怖くて電車や車に乗れない」タイプの嘔吐恐怖症に有効でした。そして「他人が吐いている姿や吐しゃ物を⾒るのが怖い」タイプの方には暴露療法が有効であることが分かっています。

 暴露療法とは自分の恐怖対象を敢えて⾒続けることにより、恐怖を緩和していく治療法です。「吐く」「嘔吐」といった⽂字や吐きそうな人、さらには実際の吐しゃ物まで恐怖対象を 20 分から 30 分間⾒るのを繰り返すことで、恐怖が緩和されていくことが分かっています。実際に嘔吐恐怖症に対する暴露療法を⾏っているクリニックもあります。

 「会食に行く」「電車にのる」という練習は他人や環境が必要になってきますが、この暴露療法に必要なのは治療用の画像や動画だけですから、いつでも一人で治療に取り組むことができます。そのため「他人が吐いている姿や吐しゃ物を⾒るのが怖い」タイプの方は比較的克服が早いです。

 暴露療法で嘔吐そのものに対する恐怖レベルを下げることが出来ますので、「他人が吐いている姿や吐しゃ物を⾒るのが怖い」タイプの方は他の嘔吐恐怖症タイプも当てはまる場合でも、まず暴露療法に取り組むのがオススメです。OPENERSでは皆様が簡単に暴露療法に取り組める映像コンテンツを用意しています。こちらもまた中盤でお届けしていきたいと思います。

 さて今回は潜在意識を変えていくこと、そしてその一つ目のアプローチである認知行動療法と暴露療法を紹介しました。次回はもう一つのアプローチ「普段自分にかけている言葉を変えること」について説明していきたいと思います。

今回のワーク

ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからどう行動していけばよいのか?が具体化されるようになっています。具体化した行動は、是非毎日の習慣としてください!