回避行動を手放す

 OPENERS15回目です。いよいよ実践的な嘔吐恐怖症の克服方法についてお伝えしていきますね。これまでは嘔吐恐怖症にも有効なのですが、それ以外の不安や自己批判に役立つ技術をたくさんお伝えしてきました。

 これからお伝えする「回避行動」を手放していく事は嘔吐恐怖症の克服に欠かせません。では回避行動とは何でしょうか?

 嘔吐恐怖が強くなってくると、嘔吐恐怖を避けるために回避⾏動と呼ばれる生活の幅を狭める⾏動をとってしまいます。「食べた後は出かけない」
「常にビニール袋を持ち歩く」「会食に⾏かない」等です。「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプの嘔吐恐怖症の場合は、「吐しゃ物に遭遇したくないので夜の街に行かない」「子供の嘔吐の処理が出来ない」といった回避行動があります。

 こうした⾏為で「吐いたらどうしよう」と不安になる場面は減らせますが、日常生活に支障をきたしますし、回避⾏動がとれなかった場合に嘔吐恐怖をより強めてしまうことになります。嘔吐恐怖症の知⾒が無いうちはこの回避⾏動を知らず知らずのうちにとってしまい、悪化させてしまうケースがあります。

 嘔吐恐怖症の克服とはつまりこの回避行動を完全に無くしていく事と言えますね!

認知行動療法と暴露療法

 回避行動を手放す方法としては「認知行動療法」と「暴露療法」があります。

 次回以降でそれぞれを詳細にお伝えしていきますが、すっごく簡単な言葉でいえば前者が「会食や食べた直後の電車など、自分が苦手な場面に敢えて挑戦する治療法」であり、後者が「他人の嘔吐や吐しゃ物の画像・イラストを見ることに敢えて挑戦して慣らしていく治療法」です。

 どちらも「自分が苦手な場面に敢えて挑戦する」=「回避行動を手放す訓練になる」というわけです。この認知行動療法と暴露療法のどちらか、もしくは両方に取り組みながら、回避行動を手放していくというのが嘔吐恐怖症の克服のキホン

 ですがこのOPENERSでは敢えて、こちらの回避行動を手放す方法を後ろに回して、先にしっかりと現状を受け入れて、しなやかに前に進んでいくためのマインド養成に力を入れてきました。こうした技術を最初にお伝えしたのは、理由があります。

 こうした基本のマインドが無ければ、回避行動を手放す事が逆効果になってしまう場合もあるからです。

レジリエンスを強化していく

 例えば会食に臨み気持ち悪くなってしまい、あまり食べることが出来なかったとします。回避行動を手放していく過程で自分が望むような結果にならない事は、ほぼ必ずと言っていいほど起こります。

 克服しようと、実際に会食に臨むだけでも相当勇気がいることです。まずそこを褒めるべきです。また結果に関わらず、認知行動療法は効果があります。もし食べることができたら、それは自信につながりますし、もし食べることが出来なくても、それは食べることが出来ない不安を低減することにもつながるのです。

 食べられないという経験をするほどに、食べられないことに対する不安は減っていくのです。これは自分が不安に思っている事に、敢えて飛び込むほどに不安は低減されていくという人間の性質によるものです。この性質により認知行動療法も暴露療法も効果があるのです。

 つまり暴露療法や認知行動療法での様々な経験は全て克服につながっていくのです。しかし単純に結果だけを評価していてはネガティブな判断しか下すことができません。こうなると次に向けて頑張るのは難しくなりますし、潜在意識も良い方向に変わっていかないのです。

 挑戦した自分をしっかり認めてあげて、励まして、次に向けて頑張り続けられるマインドが必要になります。このような心の強さや回復力はレジリエンスと言われます。もちろん暴露療法や認知行動療法に取り組む事は大切なのですが、それ以上にその過程でレジリエンスも一緒に強化していく、というのが大切になります。

こころの処方箋

 もし食べることが出来ずに、大変落ち込み、自己批判が止まらない状況になったとします。こんな時でも最善策は一つです。

 今の状況にマインドフルネスになり、自分にセルフコンパッションを向けることです。これがレジリエンスを強化していくのです。

「あ~食べられなかったから、自分を腹立たしく思う気持ちがあるな~、でも他の人も同じ状況だったら同じように考えるよな~、でもこれは自分の良くしたい!という気持ちの裏返しだからしょうがないな~、今日は勇気をだして行けたことがすごいよな~、それにちょっとだけ食べられたしな~、次はもうちょっと味を感じたり、会話を楽しむことを意識してみようかな~」

 これが自分に対してとるべき態度の一例でしょう。起きたことを冷静に受け止め、状況を勝手に悪く解釈することもなく、次にむけて自分を受け入れて励ますことが出来ていますよね?

 これは今まで培ってきた技術が無いと、なかなかこういう態度にはなれないでしょう。このため瞑想とセルフコンパッションを中心にこれまでお伝えしてきたのです。

 皆様もこれから回避行動を手放したり、認知行動療法に取り組む中で、うまくいかない!と感じることがたくさんありますが、その度にこの心の処方箋を活用して、自分を励ましていきましょう。

スモールステップで

 克服のためにはひとつひとつ回避⾏動を⼿放していくことが必要になります。

 例えば「食べた直後は怖くて出かけられない」という症状を抱えている方の場合、食べた直後に「家から一歩出てみる」→「近くの公園まで⾏ってみ る」→「電⾞に一駅だけ乗ってみる」というようなスモールステップを積むことで、食べた直後は出かけないという回避⾏動をだんだん⼿放して⾏きます。

 ビニール袋を⼿放せない人は、「ずっと持っている」→「鞄に入れておく」→ 「鞄の一番取り出しにくい所に入れておく」→「もっと⼩さい袋にする」というようなスモールステップになります。 回避⾏動を少しずつ⼿放し、回避⾏動をしなくても大丈夫なんだ︕という経験を積んでいきましょう。

 ですが回避⾏動はすぐに全部なくさなければいけないものではありません。回避⾏動がなければ、どうしても怖さを感じる場合は 無理をする必要はありません。「なしでもいけるかも・・・」という自分ができる範囲から初めて、徐々になくしていくのが良いでしょう。

 今回は回避行動を手放す方法について簡単に触れました。次回以降で「暴露療法」と「認知行動療法」に分けて、さらに詳しくお伝えしていきます。

今回のワーク

 ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからどう行動していけばよいのか?が具体化されるようになっています。具体化した行動は、是非毎日の習慣としてください!