暴露療法とは

 「暴露療法」とは「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプの嘔吐恐怖症の方に効果がある治療法です。

 このタイプの嘔吐恐怖症の方は、嘔吐にまつわる物(他人の吐く姿、吐く音、吐しゃ物、またはそれに関連する文字やイラスト)に恐怖を感じて、日常生活に支障が出る場合があります。吐く人や吐しゃ物に遭遇する不安から、夜の街に出かけられなくなったり、映画やドラマの嘔吐シーン等で、大きく動揺してしまったりする事もあります。「自分が吐くのが怖いタイプの嘔吐恐怖症」でも多くの方が、この症状も抱えています。

 暴露療法は恐怖対象(他人の吐く姿、吐く音、吐しゃ物、またはそれに関連する文字やイラスト)に敢えて晒される事で、恐怖に適応していく(慣れていく)治療法です。暴露療法は既に効果のある治療法として確立されていますので、実際に暴露療法を行っているクリニックもあります。一般的には恐怖対象が登場する動画や画像を視聴します。

 実際に私もクリニックで、少し見本を見せてもらった事があります。文字→イラスト→本物の画像→動画と言った感じで徐々に恐怖レベルを上げていき、恐怖対象に慣れていく治療法です。

 暴露療法は認知行動療法とは違い、自分の好きなタイミングで好きなだけ自己治療をする事ができます。そのため認知行動療法よりも効果が早く期待できます。また暴露療法により「嘔吐そのもの」に対する全体的な恐怖イメージを軽減することが出来ますので、「自分が吐くのが怖いタイプの嘔吐恐怖症」の治療にも寄与します。そのためカウンセリングでは他に優先して、まず暴露療法をオススメしています。

 一方で暴露療法を行っているクリニックはまだまだ少なく、治療費も決して安くはないのも現状です。また実際に病院で暴露療法に取り組まれた方からは「難易度が高く挫折してしまった」とのお話を伺った事もあります。YOUTUBE等で嘔吐にまつわる動画を視聴することも出来ますが、オススメはしません。暴露療法用に設計された動画や画像でなければ、恐怖レベルが徐々に上がっていくようには出来ていません。適切な暴露療法とはならないからです。

暴露療法をやった方が良い人・必要ない人

 では嘔吐にまつわる物は全然平気な人が暴露療法に取り組むと何か効果はあるのでしょうか?結論を言えばありません。 暴露療法をやった方が良いのは以下の方となります。

  • 嘔吐にまつわる物が怖い人。人が吐いてるのを見るのが怖くて飲み会に行けない。夜の街に行けない。
  • テレビやドラマの嘔吐シーンで大きく動揺してしまう人。
  • 上記の症状から日常生活に支障が出ている人。

 そして以下の方は暴露療法の対象とはなりませんので、今回の講義はスキップしても問題ありません。

  • 吐しゃ物に遭遇したり、テレビやドラマの嘔吐シーンは全然平気な人。
  • 平気ではないが、不快に感じても特に日常生活に影響は出ていない人。

暴露療法動画プログラム

 本プログラムでは「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプの嘔吐恐怖症の方が暴露療法をお試しいただける「暴露療法動画プログラム」を用意しています。本動画プログラムは暴露療法の効果を上げるのに必要な「徐々に恐怖レベルが上がる」「最低20分は視聴を続ける」という要素を踏襲して設計しています。

 また「難易度が高くて、挑戦できない」という人が出ないように、恐怖レベルをさらにスモールステップに分解し、「初級動画」と「中級動画」に分けています。(それぞれ30分の動画です。)「初級動画」は嘔吐にまつわる文字やイラストなど非常に難易度が低く、どなたでも挑戦頂けます。「中級動画」はそれから少しレベルを上げています。自分のレベルに応じて、適宜暴露療法をお試しいただけます。

 「恐怖を避けていては治らないのは分かってるけど、どうしたらいいのか分からない」という「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプ嘔吐恐怖症の方にとっては有効な最初のステップとなります。是非ご活用下さい。

治療の流れ

 暴露療法を使った治療の流れをお伝えしていきます。

 「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプの嘔吐恐怖症の方は「嘔吐」という⾏為そのものに恐怖を感じているため、「嘔吐に対する認知を変えていく」必要があります。暴露療法に取り組む前に適切な嘔吐に対する正しい知識を身につけましょう。

 適切な知識を身に着けたら、今度は暴露療法動画プログラムで自己治療を行っていきます。プログラムで恐怖感の低下を実感したら、夜の街に出かけてみるなど、吐く人や吐しゃ物に遭遇する不安を避ける回避行動を徐々に手放していきます。

 不安がある状態で「夜の街に出かける」「映画やドラマの嘔吐シーンを見る」「子供の嘔吐処理をする」など、いきなり回避行動を全て手放すのは難しいので、その前のスモールステップとして暴露療法動画プログラムを活用していきましょう。どんどん動画プログラムに取り組んで慣れていき、回避行動を手放すハードルを下げていきましょう!

吐くことは生きるための機能

  最初に「嘔吐」や「吐くこと」に対する適切な知識をお伝えします。皆様はこれらにどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 「嘔吐」や「吐くこと」というと非日常的でなんだか怖く感じますが、実は人間が生活していく上で大切な機能です。ウイルスが体の中に入ってきたり、消化できる容量を超えたり、過剰なアルコールが入ってきた場合には吐き出さないと命の危機になってしまいます。そこでちゃんと吐く機能があるから人間は生きていけるわけです。(私自身も何度かこの機能に命を救われました)

 このように吐くというのは本来自分の命を守るために備わっている機能であり、「自己治癒⼒」なのです。ですから吐いても一時的には⾟いですが、もちろん死ぬわけではありません。

 嘔吐恐怖症を発症して最初のうちはとにかく「吐き気」「えずき」「吐いたらどうしようという気持ち」を消し去りたいと考えるものです。しかし、これらは人間が自己防衛のために持っている機能なので、不安と同じく完全になくすことは難しいのですね。

 それよりも「嘔吐」「吐き気」「えずき」「吐いたらどうしようという気持ち」に対するイメージを変えて、その存在を許してやり、うまく付き合っていく方が早く改善に向かいます。暴露療法動画プログラムでこれらに対する恐怖感を下げる事が、その一歩となるでしょう。

暴露療法の取り組み方

 ここからは暴露療法の具体的な取り組み方についてお伝えしていきます。以下のステップを踏まえて、治療効果が最大限に高めましょう。

リラクゼーションから

 落ち着いていない時の暴露療法は効果が出にくくなります。落ち着いていない時は、感情も大きく動きやすいので、恐怖反応も出やすく「やっぱり怖い」となってしまい、治療を途中でやめてしまう可能性も高くなります。

 自己治療を行う際は、しっかりとリラックスして、時間が確保できた状態で始めましょう。また寝る前も避けて下さい。行う前にはまずリラクゼーションから入りましょう。ここで使うリラクゼーション法は「筋弛緩法」と「3分間呼吸法」です。

 筋弛緩法は身体の各部分の筋肉の緊張を緩めるリラクゼーション法です。筋肉を敢えて緊張させてから、一気に緩めていきます。

  • まずは力を入れていきます。手はじゃんけんのグーの状態でぎゅっと握りこぶし。
  • 手首・肘・肩と力を入れていき、腕を曲げて、脇をしめていく。
  • 肩をすくめて、脇をしめたままで、こぶしを肩の位置に持っていく。
  • この状態で力を入れたまま10秒間キープ。そして一気に脱力する。息を吐いて全身をだら~んとさせる。
  • この時の体の状態をマインドフルに観察する。「手や腕がぶらぶらする感じ」「首から肩から腕にかけて、血流が戻り温かくなる感じ」「筋肉が緩んでいく感じ」体が普通に戻るまで観察したら終了。これを3回繰り返す。

 暴露療法に限らず、寝る前や、緊張する時や、嘔吐恐怖症のパニック反応が出そうな時など自分をリラックスさせたい時に使える方法です。筋弛緩法をやったらいつもの3分間呼吸法で、呼吸を整えましょう。これで暴露療法への準備は完了です。

治療中もマインドフルネスとセルフコンパッションを


 治療中は「自分の体にどういう変化が起きるか」「どういう考えが浮かぶか」を感じてみて下さい。そしてそれに抵抗しない練習をします。恐怖や気持ち悪さといっても、結局は体が起こす生理的な反応ですから必ずおさまっていくものです。嘔吐恐怖症の人は「恐怖や気持ち悪さに抵抗すること」によって、より不快感が増す事がわかっています。

 「なんか気持ち悪い感じがする!このままではいけない!」とか「不安になってはいけない!」「恐怖を感じてはいけない!」というような抵抗ですね。こういう抵抗が症状を悪化させる原因になるのです。

 「自分の体にどういう変化が起きるか」→ なんかちょっと気持ち悪い?喉元がふさがっている感じがするな~、体が反応しているんだな~と、体の反応をそのままに受け入れます。そして「今体が反応して自分を守ってくれてるんだな~」と「こういう生理的な反応が出るってことは元気な証拠だな~」といった感じでその反応に優しい言葉をかけてあげましょう。

「どういう考えが浮かぶか」→ これも体の変化を感じるのと同じように、自分が考えることをそのままに受け入れ、そして優しい言葉をかけます。「今自分怖いと感じているんだな~」「怖いと感じるのは本能だからしょうがないな、でも怖いと感じるおかげで危険から命が守られるんだな~」といった感じです。

 「自分の体にどういう変化が起きるか」「どういう考えが浮かぶか」これらに対しマインドフルネスとセルフコンパッションを与える練習をしていきます。これらを繰り返して恐怖や気持ち悪さに抵抗せず、受け入れる練習をしていくと、いつの間にか体も心も反応しないように適応していくのです。

開始したら最後まで まずは1週間

 暴露療法開始後の不安レベルの推移は以下のようなグラフになる事が分かっています。

 開始5分から10分くらいまでは恐怖感や不安感が高まりますが、20分を超えるあたりから落ち着き始め、30分くらいで完全に落ち着いてきます。つまり暴露療法は最低でも20分から30分は続けることで効果が出てきます。本動画はこれを踏まえて30分となっています。効果を最大限に高めるには、一度見たらなるべく最後まで見続けてください。

 また回数を重ねるごとに全体的な恐怖感も低下しています。暴露療法は1週間程度でも効果がある事が分かっていますので、まずは同じ動画を1週間、つまり7回視聴してみましょう。

 ですが無理な視聴も逆効果となってしまいますので、「今日は恐怖感が大きいな」とか「恐怖反応に抵抗し続けてしまうな」といった場合は無理せず、またリラックスできるタイミングで取り組みましょう。

暴露療法動画プログラム初級編

 暴露療法動画プログラム初級編です。

  • 日本会食恐怖症克服支援協会との共同企画「おうと恐怖症ラボ」でも公開された初級編動画です。
  • 嘔吐にまつわる、文字→イラストが約30分流れます。
  • 一つの画像につき、1分間流れます。
  • 難易度は低めに設定されていますので、症状の程度によらず、気軽に挑戦することができます。

暴露療法動画プログラム中級編

 暴露療法動画プログラム初級編です。

  • OPENERS独自制作の中級編です。
  • 暴露療法を行っているクリニックで実際に使用される物に近づけています。
  • 嘔吐にまつわる、文字→イラスト→写真が約30分流れます。
  • 一つの画像につき、1分間流れます。
  • 難易度は初級動画より高めに設定されています。

 こちらは必ず挑戦前に以下の項目を確認してください。

初級編動画で恐怖感が無くなってから挑戦してください。

 暴露療法動画プログラム初級編からまず挑戦頂き、こちらで恐怖感が無くなってから中級編に挑戦してください。

以下のサンプル画像を確認してください。

 中級編には以下のような実際の吐しゃ物や吐しゃ場面を模した画像も含まれています。以下のサンプル画像を必ずモザイクレベルの高い順にご覧頂き、一番低いモザイクレベルで挑戦できるレベルかをご確認してから挑戦してください。

モザイクレベル100

https://kazuokazu-kaishoku.jp/wp-content/uploads/2021/06/IMG_2907_m100.png

モザイクレベル80

https://kazuokazu-kaishoku.jp/wp-content/uploads/2021/06/IMG_2907_m80.png

モザイクレベル50

https://kazuokazu-kaishoku.jp/wp-content/uploads/2021/06/IMG_2907_m50.png

モザイクレベル20 (こちらのモザイクレベルで中級編動画に使用しています)

https://kazuokazu-kaishoku.jp/wp-content/uploads/2021/06/IMG_2907_m20.png

上記項目をご確認の上、挑戦してください

 上記項目をご確認頂き、挑戦に問題が無い事をご確認下さい。一人で取り組むという性質上、全て自己責任での視聴をお願いいたします。もし挑戦できるか不明でしたら、事前にカウンセラーにご相談下さい。受講者さんの現状のお伺いして、アドバイスさせて頂きます。

今回のワーク

 ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからどう行動していけばよいのか?が具体化されるようになっています。具体化した行動は、是非毎日の習慣としてください!