認知行動療法プログラムを作成する

 前回は「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプの嘔吐恐怖症の方向けに暴露療法を活用していく方法をお伝えしました。今回は「認知行動療法」についてお伝えします。ここまでOPENERSで学びを深めてきた皆様なら、もうこれが何かご存じかと思います。

 すっごく簡単な言葉でいえば「会食や食べた直後の電車など、自分が苦手な場面に敢えて挑戦する治療法」です。皆様も嘔吐恐怖症を自覚されてから、認知行動療法という言葉は知らなくても、「慣れなきゃ!」という思いでこちらに取り組まれてきたのではないでしょうか?今回はこの認知行動療法を最も効果的に行う方法をお伝えしていきますね。ここでもマインドフルネスとセルフコンパッションが活用されていきます。

 ただ単純に認知行動療法を決めてやりましょう!というだけでは、挫折してしまいます。その認知行動療法を行って、それを自分でどう評価するか?までが大事になってきますから、どういうストレスが起こりそうかを予測して、それにどう対処するかという所まで考えておくと、よりチャレンジしやすく、効果的な認知行動療法となります。

自分のタイプを知る

 認知行動療法の第一歩は「会食恐怖症・嘔吐恐怖症のタイプを知る」という事ですね。会食恐怖症・嘔吐恐怖症の症状が出るのは、症状が出るという不安に注意が向きすぎて、その不安が大きくなり恐怖になるからです。「どうして症状が出てしまうのが怖いのか」これをまず考えて、自分の一番の不安を特定することから始まります。

 会食恐怖症・嘔吐恐怖症をタイプ別に分けて、それぞれに代表的な不安を挙げておきました。この中に皆様が抱えている不安もあるのではないでしょうか?不安の対象が異なれば、それに適した認知行動療法も変わってきますので、まずは自分の不安をしっかり自覚しておくことが重要です。

会食恐怖症

  • 会食で食べない事を変に思われるのが怖い
  • 会食で手が震えるのを変に思われるのが怖い
  • 食べない事で人付き合いの機会が減るのが怖い

嘔吐恐怖症(自分が吐くのが怖いタイプ)

  • 会食の途中で気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い
  • 電車で気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い
  • 外出中に気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い

嘔吐恐怖症(他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖いタイプ)

  • 外出中に他人の嘔吐や吐しゃ物に遭遇するのが怖い
  • 家族や子供の嘔吐処理をするのが怖い

認知行動療法を設計する

 自分の一番の不安を自覚したら、認知行動療法によって、「その不安が実は大丈夫だった!」という事を確認していきます。この確認によって潜在意識が良い方向に変わっていくのですね。どうすればその不安が大丈夫であることを確認できるのでしょうか?それは「敢えて自分を不安な状況に置く」という事になります。少し不安だったけど、実際は何とか大丈夫だったという体験をする事ですね。

 例えば「会食で食べない事を変に思われるのが怖い」タイプの会食恐怖症を考えてみましょう。この場合不安な状況というのは、自分が食べない状況という事になります。敢えて食べずに残して、その状況を作り出す事で、「食べなくても周りはあまり気にしてなかった」「食べられない事をうまく伝えられた」という経験ができるのです。

 とはいえいきなり不安な場面に挑戦するのはハードルが高いですよね。そこで認知行動療法はスモールステップで行います。このタイプの場合以下のようなスモールステップを組んで、段階的に挑戦していくのが良いでしょう。

  • 一人で外食に行って、少し残す
  • 一人で外食に行って、半分残す 
  • 友達と外食に行って、少し残す
  • 友達と外食に行って、半分残す
  • 会社の人と外食に行って、半分残す

 もうひとつ別の例も考えてみましょう「外出中に気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い」タイプだと以下の認知行動療法が適切です。

  • 飲み物を飲んだ後、すぐに近所まで外出する
  • 軽く食事をとった後、すぐに近所まで外出する
  • 軽く食事をとった後、少し遠くまで外出する
  • 普通の食事をとった後、少し遠くまで外出する
  • 満腹まで食事をとった後、少し遠くまで外出する

 さらにもうひとつ、「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプだと前回お伝えした暴露療法動画プログラムを活用して以下のようなステップになるでしょう。

  • 暴露療法動画プログラム初級編に挑戦する
  • 暴露療法動画プログラム初級編で恐怖感が無くなるまで続ける
  • 暴露療法動画プログラム中級編に挑戦する
  • 暴露療法動画プログラム中級編で恐怖感が無くなるまで続ける
  • 他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い不安を避けるために行っている回避行動を手放していく

 自分のタイプを自覚したら、「どうしたら敢えて自分を不安な状況に置けるか」「どうしたら徐々に難易度が上がるか」を考えていきましょう。そして上記のようなスモールステップを組んで、段階的に実践していきましょう。

プログラムを作成する3つの質問

 今回のワークでは自分専用の認知行動療法プランを実際に作成して頂きます。以下の質問に答えていくことで作成されていきます。

嘔吐恐怖症のために避けていることは何でしょうか?

 嘔吐恐怖症が無かったら本当はどう行動したいですか?その行動を阻んでいる一番の回避行動はなんでしょうか?それを手放すための行動ステップを作成してみましょう。ここでは複数の回避行動が出てくると思います。その中でまずは日常頻度が高く、生活に支障をきたしている物を選んでいきましょう。(会食を避けている、電車を避けている、食べた直後に出かけないようにしている、など)

そして行動ステップはとにかく細かく分割します。ワークでは5段階で設定していますが、それ以上に細かい分割でも大丈夫です。

ステップに挑戦した時に、どういう失敗が不安ですか?

 もしその不安が起きてしまった時はどう行動しますか?人間はあらかじめ良くない事態が起きた時に起こす行動を決めておくと、不安が低減されます。ここもあらかじめ詳細に考えておくと良いでしょう。

 例えば「会食中に気分が悪くなったら、少し席を外して3分間呼吸法をやってみる。」「電車で気分が悪くなったら、窓の景色に集中してみる。治るまでの時間を測ってみる」「暴露療法中に気分が悪くなったら、その症状にセルフコンパッションを与えてみる」という感じの行動が想定されます。

もし思うような結果にならなかったときは、自分にどんな慈悲のまなざしを向けて、自分を励ますことができますか?

 一番大事な質問です。自分が期待した結果が出ても、出なくても、認知行動療法を行う度に確実に克服に近づきます。もし期待した結果にならなかったときは、自分にどんな慈悲のまなざしを向けて、自分を励ますことができますか?

 これが最も大事な質問です。ほとんどの方は認知行動療法を行っても、その後結果が出なかった自分を責める傾向にあります。そんな時は、自分を責めているという状況にマインドフルネスになり、セルフコンパッションを与えてあげる事が必要でした。認知行動療法を行って、ストレスを受けた自分の感情をきちんと処理しておくことで、潜在意識が良い方向に変わっていきます。

 自分と同じ状況に置かれた大切な人が、チャレンジした後にかける言葉というイマージで考えておくと良いでしょう。今回のワークシートにはこれらの質問を載せていますので、自分専用の認知行動療法プログラムを作成してみましょう。

今回のワーク

 ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからどう行動していけばよいのか?が具体化されるようになっています。具体化した行動は、是非毎日の習慣としてください!