こんにちは。OPENERSです!

 ここまで嘔吐恐怖症を克服するための王道の治療法、認知行動療法と暴露療法についてお伝えしてきました。回避行動によって恐怖がより強化されてしまうこと、そして認知行動療法や暴露療法を実践することによって、潜在意識が少しづつ書き換わり、嘔吐恐怖症が克服に向かうことがお分かりいただけたかと思います。

 実はほとんどの方は経験則で、回避行動という言葉は知らなくても、自分が苦手な場面を避けてはいけないことを感じておられるようです。よくカウンセリングでも「避けていたら治りませんよね!」と聞かれますから。だから自然と認知行動療法を行っている人は多いようです。

 そして今回はもうひとつの潜在意識を変えていく方法である

  • 自分にかけている言葉を変えること

 についてお伝えしていきたいと思います。こちらの方法を意識することは、あまりないかもしれません。せっかく自分で認知行動療法に踏み出せているのに、こちらがおろそかになっていると、その効果は十分に発揮されません。

 潜在意識は認知行動療法や暴露療法などの「経験」によっても変わりますが、普段から自分にかけている「言葉」でも変わっていきます。普段から「会食は怖いもの」「嘔吐は怖いもの」「絶対失敗する」という言葉を自分にかけ続けてい ると、潜在意識もその言葉通りに形成されます。

 以前、潜在意識の力は言葉で意識できる顕在意識の力よりもずっと強いという話をしましたよね?ですから一言二言の言葉では潜在意識は影響をうけません。しかし人間は言葉と顕在意識を使って、一日に何千という自己対話を行っています。いくら顕在意識の力が弱いと言っても、継続すればやがて潜在意識にまで影響を与えるようになります。

自分にかける言葉を変える

 自分の言葉・思考すなわち顕在意識がずっとネガティブ感情に染まっていると、せっかく認知行動療法として例えば会食練習に⾏ったのに正しい評価ができなくなります。

 会食を避けずに何とか乗り切ったのに、そこを評価しないで「途中気持ち悪くなった」とか「あまり食べられなかった」ということばかりに注目してしまい、「会食練習は失敗だった」という評価を下してしまうことになります。いつもこういう評価を下していると、潜在意識はその評価通りに形成されてしまうのです。

 つまり潜在意識を変えるには、普段から自分にかけている言葉も変えていく必要があるのです。認知行動療法や暴露療法をする機会よりも、自分と対話する機会の方がずっと多いわけですから、むしろこっちの方が重要なのです。

 あなたは普段どんな言葉を自分にかけているでしょうか?嘔吐恐怖症の自分にいら立ち、ひどい言葉をかけていませんか?こうした言葉は変えていかなければ、潜在意識もどんどんネガティブ感情に染まってしまいます。

 認知行動療法と暴露療法は具体的な行動として残るものですから、自分でも積極的に正しいやり方で取り組みやすい方法です。一方、自分にかけている言葉を変えるというのは簡単そうに見えて、実は難しいのです。 ここからは自分にかけている言葉を変える必要性、それが容易でない理由をお伝えしていきます。

嘔吐恐怖症の心理状態

 嘔吐恐怖症になると、何も知識が無い状態だとほぼ間違いなく以下の状態に陥ります。

  • 常に病気のことが不安
  • 病気の自分を責める

 当時の自分もこれにハマっていたと思います。嘔吐恐怖症がひどい時には、朝昼晩と3度の食事がとにかく不安で、大学の講義にも全然集中できませんでした。またそんな自分をとにかく責めることで何とか解決の糸口を見つけ出そうとしていました。実は完全に間違ったやり方だったのですが・・・。

 実は知識が無いと、こういう状態に陥ってしまうのは自然なことなのです。人間の正常な思考は必ずネガティブな方向に進むためです。

常に病気のことが不安

 嘔吐恐怖症の場合は特に日常的・慢性的に大きな不安に悩まされている方が多いようです。「次の会食大丈夫かな・・・?」「これって治るのかな・・・?」「将来不安だな・・・」こういった不安で常に頭の中の一部が埋め尽くされるような状態になっています。

 「常に不安です」という相談を何度も受けてきました。嘔吐恐怖症はあまり有名な病気ではなく情報も少ないので「こんなに不安なのは自分だけ」「こんなことに不安を感じてはいけない!」という不安があることから生まれる不安につながっていきます。

 嘔吐恐怖症は「単純に不安の対象が異なるというだけで、よくある不安障害の一つである」「同じ悩みを持つ方はたくさんいる」ということは以前にお話しましたよね?こういう事実に早くから気づければ良いですが、なかなかそのような機会もないでしょう。ですから孤立感を深めて、嘔吐恐怖症により不安を感じるのは当たり前です。

 脳には「考えたくない!考えてはいけない!」と意識したことが、より強く記憶に残る性質があります。ある有名な心理学の実験なのですが、「今から絶対に白くまを考えてはいけません」と言われたとします。・・・どうでしょうか?頭に白くまのイメージが出てきましたよね?

 不安を抑圧しようとするほどに、より不安になるのが脳の性質なのです。およそ私たちの生活と関わりのない白くま(白くまが大好きな人はゴメンナサイ)ですら頭に浮かんでしまうのに、一番の悩みの種を考えないようにするなんて絶対に無理なわけです。

 そして日常的・慢性的な不安になると「楽しいことをそのまま楽しめない」「なんでも病気があること前提の思考になる」といった症状が出るようになります。もちろん人間ですから落ち込むこともあります。ですがこの状態が長期化してくると、常にエネルギー不足に陥ってしまいます。何かにチャレンジしたいんだけど、「どうせ病気があるからダメだ」と行動力が失われてしまいます。これでは克服に向けて頑張り続けるのは難しくなるでしょう。

 さらにこの状態が長期化してくると、より不安を大きくする原因にもなります。私たちはしばしば「病気のことについて悩み続ければ、いつか克服方法が出てくるのでは?」と考えます。そして色々悩みますが・・・これは克服にはつながりません。なぜなら脳には「ポジティブな要素を考えても、それを覆す不安要素も必ず考える」という性質があるからです。心理学の分野では「白いチェスを動かす」という言われ方をします。

 自分がポジティブに考えても、つまり白いチェスの駒を動かしても、必ず脳の順番になりネガティブに考えてくる、つまり黒いチェスの駒が動くということです。いくら白いチェスを動かしても、必ず黒いチェスも動くのでいつまで経っても勝負がつきません。ネガティブ感情に対して、ポジティブ感情で打ち消そうとすることは、終わりなきチェスの戦いをさせられているのと同じです。

 これは実に自然なことですよね?何か良いアイデアを思いついても、そこに潜むリスクを予測できなければ人間はとっくに滅びているでしょうから。つまり考えるほどに、いくつかポジティブな要素も見つかるでしょうが、それ以上の不安もがセットで出てくるわけです。病気のことについて悩み続けるのはメリットより、デメリットの方が大きいと言えますね。克服方法は私のようなカウンセラーやお医者さんに教えてもらえば良いわけで、自分で悩み続けても不安が大きくなります。

 ここでまた潜在意識の話が出てくるわけですが、普段考え続けていることで潜在意識は変わっていくのでした。悩んで不安になる時間が多いほどに、潜在意識はネガティブに染まっていきます。それがさらに不安を生む悪順感となるのです。ですから悩んで不安になる時間はできるだけ少なくするというのが克服のポイントです。

病気の自分を責める

 不安が長期化すると、エネルギーが失われ、より不安感が増して結果的に潜在意識もネガティブに染まっていくことを述べました。もちろん克服の過程でそういう不安に飲み込まれそうな時期もあります。こんな時期こそ不安な自分を認めて励ましてあげないといけませんが、多くの場合「不安な自分はダメだ!」と自己批判につながります。それが自己肯定感の低さや、孤立感にもつながることが分かりました。

  • 「自分には価値が無い」
  • 「誰も自分を理解してくれない」
  • 「いつまでも病気が良くならない自分が情けない」
  • 「毎日病気のことばかり悩みイライラしている」

 病気の症状そのものとは別に、こうした声もたくさん寄せられました。病気は誰しも経験するものです。しかし嘔吐恐怖症の場合、発症の原因や良くならない原因も全て自分が悪いと、自己批判につながる傾向があります。自分が窮地に陥った時こそ状況を冷静に捉え、自分を励まして頑張っていくべきなのに、私達はついつい自己批判をしてしまいがちです。

 これは人間のもともとネガティブな性質に影響される部分でもあるでしょうが、これまで受けてきた教育に大きな影響を受けているでしょう。潜在意識は幼少期や青年期の若い時の経験で形成されると言われていますが(前回紹介した方法でゆっくり変えていくことは可能です)、その時期にどういう教育をうけてきたでしょうか?

 おそらく「他人に優しく、自分に厳しく」「自分を甘やかすな」「手柄は人に感謝、失敗は自分の責任」という風に教えられたと思います。また家庭環境が良くないと自分の感情を押し殺して、「こういう人間でなければいけない」「親に認めてもらえない」という風に、とにかく自分を厳しく律して、あるべき姿でなければいけないと知らず知らずのうちに刷り込まれたと思います。

 こうした教育は人をコントロールする立場の人間にとっては都合がいいですよね?自分に厳しくして、我慢して、規律に黙って従い、あるべき人間像を実現してくれる人の方が動かしやすいわけです。日本の教育は現在もこうした自分に厳しくする教育がまかり通っています。だから給食を食べきれない子供を叱責して居残りをさせるような教師も存在するわけです。

(完全に余談ですが、一説によれば戦後日本の再建に介入したアメリカがこうした教育方法を持ち込んだともいわれています。太平洋戦争で日本人のポテンシャルに危機感を覚えたアメリカは、日本人をコントロールしやすいように自分を厳しく律して、個性をつぶす教育にさせたとか。) 

 しかしこうした自己批判は病気を良くするばかりか、エネルギーを失わせて、より不安を生むだけです。病気に加えて病気がある自分への批判がさらに克服さらに難しくさせるのです。心理学者は以下のような公式になぞらえることもあります。

苦痛 = 病気 x 自己批判

 また「気分一致効果」という心理学用語がありますが、「気分が良い時は全てうまくいってるように感じるが、気分が良くない時は全てうまくいってないと感じる」心理効果を意味します。

 これと同じく自分も一度受け入れた状態でこそ、現状を正しく評価することができます。普段から自己批判を繰り返し、自分を認められないと、自分の行いは全て失敗のように感じます。これでは克服に向けて頑張り続けるのは難しくなるでしょう。

 逆に一度自分を認めてあげれば、日々の頑張りの中から「できたこと」に注目できます。できたことに注目できると、もっとできるようになりたい!という気持ちがわくので、どんどん行動的になります。これは病気の克服に限りません。勉強でも仕事でも趣味でも同じです。

 この自己批判をやめ、自分を認めて、励ましながらどんどん行動できるマインドがあると、克服に向けて一気に進んでいくことができます。メンタルの強さとは不安にならないことではなく、いかに自分を励ませるかなのです。近年の研究でも自己批判的な人よりも、自分を認めて励ませる人の方が様々な側面でパフォーマンスが高いことが分かっています。

言葉を変えるのは実は難しい

 ここまで嘔吐恐怖症は以下の状態により、潜在意識がネガティブになりやすい傾向があることをお伝えしました。

  • 常に病気のことが不安
  • 病気の自分を責める

 不安も自己批判も気持ちの問題です。じゃあ今から「一切ネガティブなことを考えないようにして、ポジティブなことだけを考えるようにしよう!」とこれが出来たら苦労しません。ここまで何度もお伝えしてきたように気持ちの問題はすなわち潜在意識の問題です。潜在意識は私達の気合や根性といったメンタルでコントロールできるものでもありません。

 これまでずっと不安や自己批判に陥っていた人が、いきなり無理やりポジティブになろうと前向きな言葉を自分にかけていくとどうなるでしょうか?

 潜在意識の猛反撃を食らいます。

 いくら上辺の気持ちだけでポジティブなことを考えようとしても、やはり強いのは潜在意識の力です。「もっと前向きに考えたら」「弱気にならないで」「気持ちを強く持てば、自信を持てば大丈夫」この手のアドバイスは全く役に立ちません。

 不安を減らしたり、自分にかける言葉を変えていく、というのは今日から前向きになろうと決心して、メンタルをコントロールして出来るものではありません。メンタルでコントロールできるものでないと知る、その上に瞑想とセルフコンパッションという最新の心理技術をしっかり活用していくという手順でやっていく必要があります。

 この辺りも今後の講義でお伝えしていきますのでお楽しみに!

 コレだけはやろう

あなたが今一番してしまう自己批判は何でしょうか?それを覚えておいて、自己批判が生まれるたびにそれに気づくことを意識してみましょう。

「今自分で潜在意識を悪い方に変えていたな」と意識してみましょう。

今回のワーク

 今回のワークはこちらです。ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからするべき行動が具体化されるようになっています。具体化した行動は毎日の習慣としてください。