第三章の講義も大詰めです。ここまで非常に多くのことをお伝えしてきました。ここまで学びを深めてこられて、少しでも前向きに頑張りたいという気持ちが湧いてきていたら幸いです。

 さて今回の講義はマインドフルネスとセルフコンパッションを活用して行動後の評価をするというテーマでお伝えします。ここはおろそかになりがちな部分ではありますが、行動後の評価は潜在意識に大きく影響してきます。

 せっかく行動したのに、その効果を最大限発揮するには、その評価を正しく行ってあげる必要があります。また正しく評価出来るようになると、「失敗しても私は自分を責めないし落ち込まない」というマインドも育ってきます。そうなるとますます行動が加速していきますね!

結論:認知行動療法に失敗はない

 最初に前提となる大事なことをお伝えしますね!それは会食練習をはじめとした認知行動療法に失敗は無いということです。

 これは認知行動療法をした結果がどうであれ(全然食べられなかったとしても、気持ち悪くなったとしても)行動した事実は確実に克服に向けてプラスになっているということなんです。練習をすることは悪化するリスクよりも、改善されるメリットの方が常に大きいのです。

 もしこれが事実なら、もっと気軽に認知行動療法に挑戦できるでしょう。ですがこれだけ聞いてもなかなか納得は難しいかもしれません。そして私自身もこれに納得できたのは嘔吐恐怖症の克服後でした。このような考え、というより事実に至るまでに私自身も数えきれないほどに失敗を重ねてきたからです。会食練習ではたくさん失敗しました。

  • 会食で食べられないことはしょっちゅう
  • それこそ残しすぎてお店の人に怒られる
  • 家族旅行で食事がほぼとれない状態で2日過ごす

 なんてこともありました。こんなに失敗してしまえば普通もう会食なんて行きたくなくなるでしょう。・・・ですがそうした記憶がいつまでもネガティブに残り会食を楽しめないかと言えば、それは全く違いました。今は会食を楽しんでいます。

 私もこうした一見失敗と思えるような経験はマイナスにしかならないと考えていました。そしてこうした失敗経験を積み上げていくと、どんどん人との食事が苦手になっていき、余計に克服が遠のいていくものと考えていました・・・。

 ですが実際はそうじゃありませんでした!

失敗経験で嘔吐恐怖症は治っていく

 成功体験を積み上げれば自信になって克服できる!だけどもし失敗したら余計に会食が苦手になる!というのが一般的な考えだと思います。

 私もそう考えて会食練習に臨んでいました。しかしなんとか会食練習に挑戦して、いくつかの成功体験を続けるうちに、「あれ・・・?なんか今日調子悪い?どうしよう・・・せっかく前回まで調子良く食べれたのに・・・また元に戻っちゃうのか?」というような強い不安が起きるようになりました。

 もちろん成功体験は大事ですが、それだけだと「成功体験を続けないといけない」というマインドになり、これは自分を苦しくしてしまう原因にもなります。 こうなるともう一度食べられないことがあると大きく落ち込んでしまいます。

 こんな時に自分を救ってくれるのが、失敗と思えるような経験です。成功体験を積み上げなければ!と考えるよりも、むしろ調子が悪い時の経験をたくさんして

  • 「あの時も食べられなかったけど何とかなった」
  • 「調子悪くても半分なら食べられる」
  • 「会話を楽しむことはできる」

 といったマインドを育てて、自分なりにできることを増やしていく方が克服に近づきます。 少しでもこのような気持ちがあるかないかで、会食へのプレッシャーは全然違ってきます。

 そう考えると会食の場で経験することは全て自分の身になっていると言えます。例えば全然食べられなくも「敢えて残す練習ができた」と言えますし、もし残したことを誰かが指摘してきたら「自分の症状を相手に伝える練習をするチャンス」であると言えます。つまり何が起きたとしても、全部自分の糧となります。そういう意味で会食練習には失敗がありません。行くだけで100点なのです。

 これは全ての認知行動療法と暴露療法についても同じことが言えます。自分が期待するような結果にならないことがあっても、その中でも自分ができることをしっかりやっていく。行動を続けていく。こういう経験こそ克服に大きく寄与してくるのです。

 全ての経験が結局は自分の糧となってくれます。人間は失敗の前が一番不安が大きくなります。そして実際に不安なことを経験するほどに、その不安は軽減されていくのです。(何事も一度経験してしまえば、不安は少なくなるのです。)

失敗するほどにメンタルが安定する

 こうした失敗が自分の糧になって、後から結果がついてくるというのは私のケースに限った話ではありません。心理研究の世界では、失敗や辛い経験をした人ほど、後の人生を充実させているというのは調査で分かっている事実なのです!

 私達は自分の感情耐性、つまりどれだけネガティブな感情に耐えられるかの能力を大きく過小評価していると言われています。もちろん失敗や辛い経験があるとその時は落ち込みますが、人間にはちゃんと感情を処理して、よりストレスに強くしてくれる能力が備わっています。

 私が経験した失敗も、当時はこの世の終わりぐらいに深刻に考えていましたが、今思い出してもあまりネガティブな感情は起きなくなっています。「あ~そんなこともあったかな~」という感じです。時間が経てば物事の捉え方というのは本当に大きく変わります。

  • 失敗や辛い経験は後から自分の糧になるという事実をまず頭に入れて、認知行動療法に臨む。

 このポイントを押さえるだけでも、認知行動療法への挑戦のしやすさ、そして練習の効果は大きく変わってきます。

 認知行動療法はただ成功体験を積み上げれば良いものでもありませんし、それを続けるのは不可能です。必ず自分が思うような結果にならないこともあります。そんな時にどのような捉え方をしていくかというのは、会食練習と同じくらい重要なのです。

結果ではなく行動を評価する

 それではマインドフルネスとセルフコンパッションを活用して、行動後の評価をしてみましょう。

 ほとんどの人は例えば会食の練習に行って、食べることができれば「嘔吐恐怖症が治ってきている!いい感じだ!」という評価を下し、逆に食べることができなければ「嘔吐恐怖症が悪化した!やっぱり自分は治らないんだ!」というような評価を下してしまうと思います。

 確かに結果だけを見て自分の感情のままに評価を下してしまえば、このような評価になるでしょう。しかしこのような感情ベースの評価を続けていると、認知行動療法を続けていくのが難しくなります。

 そもそもいつでもうまくいくのが保証されていれば、練習をする必要もありませんよね!思うような結果にならない時は必ずあります。

 感情の一喜一憂が大きい評価では、克服に向けてのエネルギーが分散してしまい、やがてやる気が無くなってしまいます。このような自分の感情に左右されず、ちゃんと事実を見て正しい行動の評価することが重要なのですが、ここは非常におろそかにされやすい所でもあります。先にお伝えしたように行動は結果に関わらず克服へとつながっていくのです。

 先にお伝えした全てのネガティブ感情に対する心の処方箋を思い出してみましょう。行動後はエネルギーの消耗もあって特にネガティブ感情につかまりやすいですから、しっかりこれを意識して正しい行動後の評価をしていきましょう。

 ネガティブ感情につかまるマインドフルネスで自分を客観視してネガティブ感情になっていることに気づくセルフコンパッションを与える

ネガティブ感情「認知行動療法に挑戦したけどうまくいかなかった」「食べられなかった」「気持ち悪くなってしまった」「どうして変われないのか」

ネガティブ感情になっていることに気づく「あ、今イライラしてたな」「乱暴な言葉で自分を無理やり変えようとしてたな」

セルフコンパッションを与える「前向きに行動できた」「自分のやるべきことが出来た」「また克服に一歩近づいた」「しっかり行動を続けていこう」

 エネルギーを消耗している時は、ネガティブ感情は何度も浮かびます。より丁寧に心の処方箋を意識しましょう。

 

行動後の評価も成長の証

 これまで物事を減点方式で考えてきた人には、このようなマインドフルネスとセルフコンパッションを活用した加点方式の考えが浸透するのは難しいかもしれません。ですが続けているうちに考え方のクセは確実に変わっていきます。いつしか自分にセルフコンパッションを与えるのが自然と出来るようになります。

 認知行動療法だけでなく他の物事に対してもこのような加点方式で評価を続けてあげると、自分で自分を励まして走り続ける能力が身に着きます。困難や逆境の中にあっても心が折れることなく、前を向ける能力が身に着きます。これを心の回復力:レジリエンスとも言います。

 レジリエンスは嘔吐恐怖症の克服はもちろんのこと、人生を充実させるための基礎力になります。

 認知行動療法や何かに挑戦した時は自分を褒めて正しい評価をして、レジリエンスを養いましょう。レジリエンスが身に着くと、失敗してもそこから自分は意味を見出して前に進んでいける!というマインドになるので失敗に対する抵抗が減ります。つまり予期不安に対しても強くなります。認知行動療法の評価も、自分を大きく成長させるチャンスなのです!

病院では見つからない視点

 会食恐怖症や嘔吐恐怖症で病院にかかると、必ず認知行動療法を教わります。認知行動療法とはつまり会食練習のことで、自分が苦手な場面に徐々に挑戦していく事で慣れていく治療法です。

 私も嘔吐恐怖症で病院にかかっていた時はこの認知行動療法をよく教えられました。これに挑戦しましょう、あれに挑戦しましょうといろいろなステップを組んで、自分なりの認知行動療法をカウンセラーさんの指導のもとで考えました。

 ですが心の中では、「もし挑戦してうまくいかなかったら(私の場合は会食の場で気持ち悪くなること)どうなるんだ・・・」というのがずっと疑問でした。そもそも練習すれば良くなることなんて病院に行く前から何となくは分かっていましたし、おそらくあなたもそうでしょう。

 病院ではどうすれば良くなるか?は詳しく教えてもらえますが、もし失敗して(失敗したと感じて)良くなっていると思えない時はどうするか?についてはあまり詳しく教えてもらえません。

 認知行動療法を続けて、その効果を高めていくには良くなっていると思えない時も適切な感情のケアが必要ですが、こうした視点は何度も失敗しないとなかなか見えてこず、病院でも教えてもらえないことでした。ですがこれは会食練習と同じくらい、むしろそれ以上に重要なのです。

 今あなたはマインドフルネスとセルフコンパッションという新しい武器を手にしています。これまでのように感情まかせの評価では無く、しっかり正しい評価をして行動を継続していきましょう!

 

 コレだけはやろう

認知行動療法に限らず、今日頑張ったことにひとつ対して正しい評価をしてみましょう。

今回のワーク

 今回のワークはこちらです。ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからするべき行動が具体化されるようになっています。具体化した行動は毎日の習慣としてください。