こんにちは!OPENERSです。

 今回は嘔吐恐怖症で毎日の食事をとるのも困難な方への講義となります。嘔吐恐怖症はその症状の出方も様々で、会食時だけ症状がでる方もいれば、一人で食べる時も「吐いたらどうしよう」という不安で、満足に食事ができない場合もあります。 該当しない方は講義をスキップしてOKです。

 私自身も嘔吐恐怖症が一番ひどかった時には、ほとんど食事をとることが出来ませんでした。吐いたらどうしようという不安が強すぎて、とにかく食事が楽しくなくて苦痛でした。しかもその原因が嘔吐恐怖症とは知らないままですから、なおさら苦痛でした。

 実はこのタイプの嘔吐恐怖症の方はとても多いです。嘔吐恐怖症のストレスが大きくなってくると、日々の食事も難しくなってくることはよくあります。しかし当事者にとっては「ひとりでも食べられないなんて」「こんな症状で悩んでいるのは自分だけ」「自分は拒食症なのかな・・・?摂食障害なのかな・・・?」といったより深刻な悩みへと発展してしまいます。

 特に拒食症・摂食障害あたりの病気と混同されるケースが多いです。「食べるのが怖いんです・・・」などと病院で相談すると、やはり拒食症・摂食障害などを疑われてしまいそうで、なかなか相談しにくいのが現状です。

 今回の講義ではこの一人で食べる時も「吐いたらどうしよう」タイプの嘔吐恐怖症の方が、楽しく食べられるまでのステップをお伝えしていきたいと思います!

嘔吐恐怖症は拒食症・摂食障害とは違う病気

 一人で食べられない方が、真っ先に心配になってしまうのがやはり「自分は拒食症なのかな・・・?摂食障害なのかな・・・?」ということです。食事がとれなくなる病気といえば、まず先にこちらを思い浮かべてしまいます。

 しかし嘔吐恐怖症はこれらの病気とは「何に不安や恐怖を感じるか」という点で違います。拒食症・摂食障害については、食べることで太ってしまうのではないかといった自分の容姿やコンプレックスに関わる不安が原因となります。(拒食症・摂食障害の専門家では無いので、ここの表現はやや正確さに欠ける部分もあると思います。)

 一方で嘔吐恐怖症の場合は「食べると吐いてしまうのが怖い」「吐くことが癖になって、どんどん食べられなくなって痩せてしまうのが怖い」という不安が原因になります。不安の原因が違えば、改善するための認知行動療法も違ってきますので、これらは違う病気だと言えます。

 また嘔吐恐怖症の方が併発しやすい病気のデータを参照しても、うつ病やパニック障害といった疾患は併発するケースがあるようですが、拒食症・摂食障害はそれらに比べるとかなり少ないのが現状です。嘔吐恐怖症と拒食症・摂食障害は違う病気であり、嘔吐恐怖症だからといって、拒食症・摂食障害になりやすいこともありません。

 食べると吐いてしまうのが怖いと感じる方は、拒食症・摂食障害で考えるよりも嘔吐恐怖症を改善するためのアプローチをとっていきましょう。

一人で食べられない=症状が重いは違う

 一人でも食べられない方は、「自分って嘔吐恐怖症の中でも症状が重い方なんだな・・・」と悩んでしまうことがあります。

 シチュエーションの難易度で考えるとやはり、「家で一人で食べる」→「一人で外食する」→「会食に行く」と思われるので、家で一人でも食べられないのは一番簡単なシチュエーションもクリア出来ていないのかと悩んでしまいます。

 ですがこうしたシチュエーションの難易度は人によります。家で一人の時の方が症状が強く出る方も中にはいらっしゃいます。これは何にプレッシャーを感じるかの問題です。

 例えば会食に行く場合、「会食だからみんなと一緒に楽しく食べないといけない」とプレッシャーに感じる方もいれば、「会食は難易度が高いから食べられなくて当たり前、練習だと思って行けば良い」くらいに楽に捉えられる方もいます。

 例えば一人で食べる場合、「一人の時くらいしっかり食べなきゃ」とプレッシャーに感じる方もいれば、「一人だから自分のペースで気楽に食べられる」くらいに楽に捉えられる方もいます。シチュエーションの難易度は人によって違うので、どのシチュエーションがクリアできないと症状が重いとった判断は出来ませんし、意味がありません。

 私も「一人で食べられないほど症状が悪化している!」と思っている時に会食に行くと意外に食べることが出来た、ということもあります。どういうシチュエーションに一番プレッシャーを感じるかは、その時の状態で大きく変わってきます。ですから「一人で食べられない=症状が重い」というのは違います。

体重を落とさない工夫を

 嘔吐恐怖症で食事がとれないとストレスになるばかりでは無く、「これ以上痩せてしまったらどうしよう・・・」という不安との戦いにもなります。会食恐怖症や嘔吐恐怖症の方にはもともと痩せ型の方も多い為、体重が落ちてしまうのは、食べることへのプレッシャーをより強くしてしまうことになります。

 そんな中でも毎日必要な栄養をとって、楽しく食べられるようになる為には食べ方を工夫していく必要があります。

食欲が無い時でも食べられる物を

 嘔吐恐怖症で食事がとれない時は毎日3食、もしくは2食をきちんと摂れれば良いですが、なかなか難しい時もあるでしょう。食欲のない時期が長く続くこともあります。

 そこで食欲が無い時でも食べられる物が自分の中でたくさんあると、食事がとりやすくなります。どんな時でも「これなら、少量なら食べられる」という物をどんどん増やしていきましょう。

 私は食事がとれない時でも「バナナ」と「食パン」だけはすんなり食べられましたので、こちらで栄養不足を補っていました。3食がきちんと摂れなくても、後からバナナと食パンを食べていました。こうして自分がどんな時でもある程度食べられる得意な食品をこまめに摂取していくことが重要です。

 食欲が無くても食べられる物というのはだいたい特徴が決まっています。以下3つの要素を満たす食品の中で、自分が好きなものを見つけてみましょう。

  • 調理不要の物
  • 薄味の物
  • 価格が低いもの

  食欲が無い時に、手の込んだ味の濃い高い料理を食べる気にはなれませんよね。ですからその逆をいけば食べやすいものになるのです。そしてこれらに相当する食品例を以下にあげてみました。どれも条件を満たして、栄養があるものです。特にたんぱく質は意識的に摂取しないと不足しがちです。(基本的に一日に1g x 自分の体重(kg)必要です。)

  • バナナ
  • 食パン
  • ツナ缶鯖缶などの缶詰
  • ナッツ
  • プロテイン
  • 納豆
  • 豆腐
  • トマトとブロッコリー(レンチンするだけ)

 きちんとした食事がとれなくても、こうした食品をつまんでおくだけでも、ある程度栄養不足は解消されます。例えば夕食をちゃんと摂れなくても、バナナとツナ缶だけでも食べておく、といった工夫で体重が落ちるのを防げます。またこうして少量でも規則正しく食べるという生活によって、だんだん普通の食事がとれる生活リズムが整ってきます。

 また同じものを繰り返し食べることによって、調子が悪くてもコレなら食べられるなという意識も育ってきます。栄養確保の軸となる食品をどんどん見つけていきましょう。

美味しいと感じる瞬間を

 嘔吐恐怖症がつらい時期には何を食べても美味しくないと感じる時もあるでしょう。

 食べる量を増やしていくには、毎日少しでも美味しいと感じる瞬間が大事です。それは何を食べてもかまいません。ポテトチップス・チョコレートなどの菓子類、ジュースなどの清涼飲料水でもある程度の量ならOKです。

 こうしたものでも美味しいと感じる時があれば、潜在意識が食事が好きになるきっかけになっていきます。何かひとつでも美味しいと感じると、少しづつ他の食品も美味しいと感じることが増えていきます。

 最初はバナナと食パンしか美味しいと感じなかった私も、それがきっかけでだんだん他の食品も美味しいと感じるようになっていきました。一日一回でも良いので、自分が美味しいと感じるもの、好きなものを見つけて食べましょう。

一日中こまめに食べるイメージ

 3食をしっかりとるのが難しい方は、一日に食べる回数を増やしましょう。

 「3食が食べられないのに、増やせないよ!」と思われるでしょうが、ここでは一食で食べる量を少なくしていきます。少量の食事を一日に3回以上小分けにして食べていくようにします。

 嘔吐恐怖症の方はお腹いっぱい食べることが難しいので、一度に食べる量は少なくなりがちです。そこで一日3回とは決めないで、少量を一日に何度も食べるイメージの方がプレッシャーが減ります。

 小分けにして一日に何度も食べるのはよく使われる手法です。嘔吐恐怖症の方だけでなく、体を大きくしたい人など栄養を増やしたい人は誰でもやっています。そして小分けにしている一回の食事の量を少しづつ増やしていく、食事の回数を少しづつ3回に戻していきます。

 私も大学生の頃はお昼は友達と行っても、あまり食べられないことがほとんどでしたので、夕方帰ってから改めて遅い昼食を食べていました。一日軽めの食事が4回あるという感じですね。

 このタイプの方にとっての適切な認知行動療法というのは胃にものが入っている時間を出来るだけ長くしていく、完全な空腹時間を作らないということになります。最初からお腹いっぱいは厳しいでしょうから、腹二分目、三分目でも良いので出来るだけそれを一日中維持することが重要です。

 私も認知行動療法という言葉は知らなかったですが、とにかくお腹いっぱいにするのが怖かったので「常にお腹いっぱいを維持すれば怖くなくなるのでは?」と考えるようになりました。そこからなるべく空腹時間を作らないような生活に挑戦していったことから、お腹いっぱいへの恐怖心はだんだん減っていきました。

気持ち悪くなったら

 なるべく空腹時間を作らないのがベストですが、やはり食べた後に気持ち悪くなってしまうこともあると思います。それが怖くてなかなか食が進まない時もあると思います。

 ですがこの気持ち悪くなったタイミングこそ練習のチャンスでもあります。 先の講義でお伝えしてきた通り、食べた後に気持ち悪くなるというのはどんな人でも経験することなのです。気持ち悪くなるのが問題ではなく、そこからどれだけの時間で落ち着きを取り戻せるかという点が重要なのです。

 気持ち悪くなったり、吐きそうにパニックになりそうな時はここまででお伝えしてきた「3分間呼吸法」や「実況法」をはじめとした自分を落ち着かせる為のマインドフルネスをやっていきましょう。自分の呼吸や周りの環境に意識を向けてみます。

 その際に余裕があれば、マインドフルネスをやって気持ち悪さやパニックがどれくらいの時間で治まっていくかも確認しておきましょう。練習を繰り替えすごとに治まるまでの時間も短くなっていきますので、自分が成長していることの実感も持てると思います。この「気持ち悪くなっても自分で落ち着きを取り戻すことができる」という体験が改善には非常に重要になってくるのです。

 お腹いっぱい感や吐くことへの恐怖を感じたら、「そこからもう一口だけ食べる → パニックになりそうになったらマインドフルネス」を繰り返していきましょう。これによりお腹いっぱいへの恐怖心もかなり低減していきます。

つぼイメージ法

 マインドフルネスの一種として、「つぼイメージ法」があります。

 これは自分の身体をしっかりとした壺であるとイメージすることで、気持ち悪さやパニックを抑えることが出来ます。

  • まずは3分間呼吸法のやり方で、自分の呼吸に意識を向けます。
  • そして自分の胃の周り、胴体がしっかりした壺になったようなイメージを想像します。
  • パニックになりそうな時は、胃の辺りに重さを感じていると思います。この重さを利用して、壺の中にものがしっかり詰まって、重力がどっしりかかって動かないようなイメージを想像します。
  • 胃の辺りの重さを利用して、どんどんに力が下へとかかるイメージを想像します。重力は必ず下にしかかからないので、決して上には上がってこれません。どんどんに下へ下へと力がかかっていきます、もう胃の中のものは上には上がってこれません、というイメージを想像します。
  • 上記の状態を2,3分維持します。すると胃の中のものがしっかり胃の底に落ち切った感じがして、気持ち悪さやパニックが緩和されます。

食事がとれない時を乗り切ろう!

 今回の講義では嘔吐恐怖症で毎日の食事をとるのが困難な方に向けて、楽しく食べられるようになる為のステップをお伝えしました。

  • いつでも食べられる食品を増やしていく
  • 少しでも美味しいと感じる瞬間を増やす
  • 体重を落とさない工夫をしながら食べていく
  • 胃にものが入っている時間を長くするのが良い認知行動療法
  • 気持ち悪くなったら、自分を落ち着かせる練習をする

 食事がとれない時はストレスになりますが、時間をかけて乗り越えていく分だけ調子も落としにくくなります。一日一口でも美味しく食べることを意識して、取り組んでいきましょう!

 今回のワークはありません。