会食恐怖症・嘔吐恐怖症の原因

 会食恐怖症・嘔吐恐怖症になる原因は様々あります。最もきっかけとなり易いのが、食が細いのに食べることを周りに強要され、それが大きなプレッシャーとなって食べられなくなる場合です。特に小学校給食での完食指導(食べきるまで居残り・無理やり食べさせられる)や、高校・大学の部活における食事指導(とにかくたくさん食べなければいけない)が原因となっているケースが多いようです。

 もともと人によって一度に食べれる量は違うのに、一律に同じ量を決められた時間内で食べきらなければいけない指導で、「たくさん食べる人・早く食べる人が偉い」「食べられない自分には価値が無い・誰も相手にしてくれない」といった考え方から「絶対に食べきらないといけない」というプレッシャーになる間違った価値観が構成されてしまいます。

 本人の性格が影響することもあります。周りに気配りができる優しい性格が、「食べないといけない」と自分を追い詰めてしまう場合もあります。また生まれながらの身体的特徴が影響することもあります。少しの緊張がすぐ吐き気を引き起こしたり、喉のこわばりを起こす体質の人もいます。

 病気で体調が悪く吐いてしまって苦しい思いをした、食事中に気持ち悪くなったことなどが原因で「次また気持ち悪くなったらどうしよう」「食べないのを変に思われたらどうしよう」というプレッシャーから食べられなくなる場合もあります。もともと良く食べる⽅でも会食恐怖症・嘔吐恐怖症が発症するのはこのケースが多いですね。

 どのケースでも「○○になったら怖い、どうしよう」という食事に関する大きな不安を抱いていることは共通しています。例えば「人に食べないことを指摘される」「食べるのが遅いことを指摘される」「食べている途中で気持ち悪くなる」などです。この大きすぎる不安が様々な症状を引き起こす原因になっているのです。克服においてはこの一人一人が抱えている、その人にとって一番大きな不安を考え方や行動を変えることで緩和していくことが必要になります。

 そしてその発症には遺伝・経験・環境など実に様々な要素が関係しています。本人の意思とは関係なく発症する、つまり嘔吐恐怖症・会食恐怖症は誰にでもなる可能性がある病気です。これまで様々な方にカウンセリングを行いましたが、スポーツをバリバリやる学生や、もともと大食いの方でさえ発症します。ですので「自分の心が弱いから会食恐怖症になった」という間違った捉え方をしないようにしましょう。逆に会食恐怖症・嘔吐恐怖症になったことがきっかけで、自分の心と体を見つめなおして人生をより良くする方向へ歩き出された方もいらっしゃいます。

あなたのせいではない理由

 よくこんな声をお聞きします。

  • 「自分の心が強かったら会食恐怖症にならなかったのに」
  • 「もっとポジティブに考えられたら嘔吐恐怖症も治るだろうに」
  • 「前向きになれない自分が情けない」

 会食恐怖症・嘔吐恐怖症は確かにメンタルに関する疾患です。ずっと前向きにポジティブに考え行動していけば、簡単に治るといえましょう。ですがそんなことは人間には不可能なのです。なぜなら人間の脳にはネガティブな出来事ほど強く記憶に残る性質があります。そして沸き上がる不安・心配・自己批判といったネガティブ感情を気合や根性で抑圧することは出来ないのです。

 これは人間に本能的に備わっている性質です。もしも気合や根性で抑圧出来てしまったらこれはとても危ない事です。人間は危険が潜んでいそうな対象に恐怖を感じますが、恐怖が不快だからといって気合や根性で抑圧されてしまうと、常に危険に身を晒してしまう事になりかねません。

 だから脳は会食や嘔吐にまつわるネガティブな体験をすると、その体験を一生懸命記憶して、もう嫌な思いをしないようにそういう場面に遭遇しないよう私達に働きかけるのです。会食に行こうとしても「また食べられなくてみんなに変に思われるよ、だから行くな」「食べている途中で気持ち悪くなると、だから行くな」「どうせ行っても治らないよ。やる気の無駄だ、だから行くな」 こうした思いが次々湧いてきます。

 これは自分の気合や根性ではコントロール出来ません。それほどまでに私達に備わった自己防衛機能は強力です。少しでも嫌な思いをしないように、心と体は一生懸命抵抗するのです。会食恐怖症・嘔吐恐怖症は日常生活に支障が及び、また治せるという点で「病気」に分類することは、それで正しいとは思います。ですが病気と呼ぶ必要もないのかもしれません。なぜなら私達に本来備わっている自己防衛機能がただ正常に働いたというだけなのですから。

 ほとんどの方はこうした事実を知らないまま、気持ちをコントロールしようとします。そしてコントロールできないと「自分が弱いから」という間違った自己批判にまでつながり、より克服が遠のいてしまうのです。決してあなたのせいではありません。気持ちはコントロールできなくて当たり前なのです!

 気持ちはコントロールできません。では何がコントロールできるのでしょうか?それは「行動」です。人間の行動は気持ちに左右されません。どんな気持ちの時でも行動だけは貫き通す事ができます。皆さんも日々の行動全て「やりたい!」と思っている訳ではありませんよね。でも、やれば後々良い結果をもたらすのが分かっているので行動するのです。

 最初は気持ちと行動が伴わないかもしれません。会食に行きたくないのに、行ってみるという行動も必要になるでしょう。ですが気持ちが伴わなくても、行動はそれ自体に大きな価値があります。「自信をもって会食に行けるように自分の気持ちをコントロールする」よりも、「すごく不安でも食べられなくても、それでも会食に行ってみた」という行動を起こした事実の方がよっぽど重要なのです。

 そして行動は必ず自分に返ってきます。行動を積み重ねるうちに気持ちの方が変化して、気持ちが行動に伴うようになってくるのです。つまり気持ちを変えるのは気合や根性ではありません。気持ちが伴わなくても行動する事にあるのです。その先に気持ちにも良い変化が現れてきます。

 私はカウンセラーとして自身の経験から上記のような「気合や根性で気持ちをコントロールしない」「行動で良くしていく」という信条を通していきたいと思っております。どんな時も不安を抱えた自分を認めて受け入れる、気持ちをコントロールしようとして疲弊しない、その上でやるべき事を集中してやっていく。 これが克服へのカギとなるでしょう。