認知行動療法とは

 こんにちは!OPENERSです。前回は回避行動によって恐怖が維持され、それが強化されてしまうことをお伝えしました。

 この恐怖の連鎖を食い止めて、どんどん恐怖を減らしていく治療法・・・それが「認知行動療法」と呼ばれるものです。

 すっごく簡単な言葉でいえば「会食や食べた直後の電車など、自分が苦手な場面に敢えて挑戦する治療法」です。あなたも嘔吐恐怖症を自覚されてから、認知行動療法という言葉は知らなくても、「慣れなきゃ!」という思いで自分なりの認知行動療法に取り組まれてきたのではないでしょうか?

 前回の講義で、人間は恐怖を感じた時に以下の反応を示すことをお伝えしました。

  • 身体の変化
    例:ドキドキ、冷や汗、ソワソワ、気持ち悪さ、吐き気、胃痛などの身体症状
  • 考え方の変化
    例:「また気持ち悪くなったらどうしよう」「吐いたらどうしよう」「会食が出来なくなったらどうしよう」「誰かが吐いているのを見たらどうしよう」
  • 行動の変化
    例:会食を避ける、お腹いっぱい食べられない、電車に乗れない、夜の街に行けない、不安薬や胃薬を常飲する

 そしてこれらの反応に促されるままに行動していると、どんどん身体症状や不安が強化されていくのでした。

 この恐怖の連鎖を食い止めるには、まず行動を変えていく必要があります。 潜在意識が不快な症状や不安を出して、回避させようとしている行動を敢えてとっていく必要があります。

不安の性質を知ろう

 どうして認知行動療法をすると嘔吐恐怖症が治るのでしょうか?それにはまず不安の性質から知りましょう。

 不安というのは、不安材料が無くならない限りずっとあるものだと思っていませんか?実はどんな不安も時間が経てば必ず無くなるという性質があります。

 以下のグラフは不安な行動を取っている時に、不安の経過を示したものです。不安な場面に遭遇した時、つまり認知行動療法を開始した直後に一番不安が大きくなってますね。これは会食に参加したり、お腹いっぱいで電車に乗ったりした直後です。

 それ以降は緩やかですが、だんだんと不安が減ってきていますね。そして最終的には不安が完全に消えています。あなたも緊張の峠を越えた後は一気にリラックスして楽しめたという経験はありませんか?どんな不安も時間が経てば同じ状況になるのです。

 ではもう一度同じ不安な場面に挑戦した時のグラフを見てみましょう。

 今度は不安のピークが小さくなって、そして不安が消える時間も早くなっていますよね。そして同じ状況を繰り返していくほどにどんどん不安のピークも、不安が消える時間も早くなっています。

 これが認知行動療法の効果です。潜在意識とは逆の行動をとって、敢えて不安にさらされる時間を増やしていくと、どんどん同じ場面での不安が減っていくのです。

不安は行動を促している

 そもそも不安とは何のためにあるのでしょうか?

 先にお伝えしたように、人間は基本的にはとてもネガティブで常に不安を抱えて生きています。これは以前の過酷な生存環境に適応してきた結果なのです。不安があると、あなたはどう変化するでしょうか?

 「明日会食があるな~」 → 「でもまた気持ち悪くなったらいやだな~」(不安) → 「行かないようにしよう」(結果の行動)

 不安があると、その不安が減る方向に行動したくなりますよね。会食を避けるという行動以外にも、以下の例が挙げられます。不安の先には必ず何か結果の行動があります。

  • テストが不安だから勉強する
  • 病気が不安だから保険に入る
  • 損するのが怖いから株はやらない

 つまり不安とは、必ず何かの行動を促しているのです。 会食前の不安は何とか「会食を避けるという行動」を選択して欲しくて、潜在意識は不快な症状や不安を出しているのです。

 では認知行動療法によって、敢えて潜在意識とは逆の行動をとって、不安にさらされる時間が長くなるとどうでしょうか?潜在意識はどんどん変わっていきます。

  • 「あれ?不安を出してるのに、全然行動してくれないな(会食を避けてくれないな)」
  • 「不安を出しても、いつも最終的になくなってしまうな。何も危険なことは起きないな」
  • 「じゃあもうこの不安は必要ないな。次からは出すのをやめよう」

 潜在意識がこういう感じに変わってくるのです!結局不安は何かの行動を促すのが目的であり、「不安を出しても、その行動をとってくれない」「行動しなくても危険なことは起きない」と分かれば、不安を出さなくなるのです。これが認知行動療法の効果です。

 認知行動療法は大きな不安が伴います。ですが不安にさらされる時間が長いほど、不安が消えていく経験をするほどにその効果も高くなります。「不安がある」=「効果的な認知行動療法」ができるということなんですね。

自分のタイプを知る

 

 それではここから具体的な認知行動療法についてお伝えしていきます。

 認知行動療法の第一歩は「嘔吐恐怖症のタイプを知る」です。嘔吐恐怖症の症状が出るのは、症状が出るという不安に注意が向きすぎて、その不安が大きくなり恐怖になるからです。「どんな不安を抱えているのか」「どんな症状が出てしまうか」「どんな回避行動を取ってしまうのか」これをまず考えて、自分のタイプを特定することからはじまります。

 タイプが異なれば、それに適した認知行動療法も変わってきますので、まずは自分のタイプをしっかり自覚しておくことが重要です。先にお伝えしたように、嘔吐恐怖症には大きく分けて3つのタイプがありましたね。

「吐くのが怖くて会食ができない」

  • 会食の途中で気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い
  • 一人の食事でも吐いてしまうのが怖い

「吐くのが怖くて電車や車に乗れない」

  • 電車で気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い
  • 外出中に気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い

「他人が吐いている姿や吐しゃ物を⾒るのが怖い」

  • 外出中に他人の嘔吐や吐しゃ物に遭遇するのが怖い
  • 家族や子供の嘔吐処理をするのが怖い

認知行動療法を設計する

 自分のタイプやその背景にある不安を自覚したら、認知行動療法によって、敢えてその不安にさらされる体験、その不安がだんだん治まっていく体験をしていきます。「その不安が実は大丈夫だった!」ということを確認していきます。この確認によって潜在意識が良い方向に変わり、次からは不安を出さないようになっていくのですね、

 例えば「吐くのが怖くて一人で外食も出来ない」タイプの嘔吐恐怖症を考えてみましょう。この場合不安な状況というのは、「一人で外食に行ってお腹いっぱい食べること」になります。さらに進んでいくと「会食に行ってお腹いっぱい食べること」になります。

 とはいえいきなり不安な場面に挑戦するのはハードルが高いですよね。そこで認知行動療法はスモールステップで行います。このタイプの場合以下のようなスモールステップを組んで、段階的に挑戦していくのが良いでしょう。

  • 一人で外食に行って、少し残す
  • 一人で外食に行って、半分残す 
  • 友達と外食に行って、少し残す
  • 友達と外食に行って、半分残す
  • 会社の人と外食に行って、半分残す

 もうひとつ別の例も考えてみましょう「外出中に気持ち悪くなり吐いてしまうのが怖い」タイプだと以下のようなステップになるでしょう。

  • 飲み物を飲んだ後、すぐに近所まで外出する
  • 軽く食事をとった後、すぐに近所まで外出する
  • 軽く食事をとった後、少し遠くまで外出する
  • 普通の食事をとった後、少し遠くまで外出する
  • 満腹まで食事をとった後、少し遠くまで外出する

 もうひとつ、「他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い」タイプだと暴露療法動画を活用して以下のようなステップになるでしょう。(暴露療法動画はプログラムの後半でお届けします)

  • 暴露療法動画プログラム初級編に挑戦する
  • 暴露療法動画プログラム初級編で恐怖感が無くなるまで続ける
  • 暴露療法動画プログラム中級編に挑戦する
  • 暴露療法動画プログラム中級編で恐怖感が無くなるまで続ける
  • 他人が吐くことや吐しゃ物を見るのが怖い不安を避けるために行っている回避行動を手放していく

 さらにもうひとつ、「一人の食事をとるのも難しい」タイプだと以下のようなステップになるでしょう。徐々に胃がからっぽになっている時間を減らして、常に胃に食べ物が入っている状態を維持していきます。

  • 一人で腹三分目くらいまで食べる
  • 一人で腹三分目くらいまで食べる → お腹が空いたらすぐにまた腹三分目くらいまで食べる
  • 一人で腹五分目くらいまで食べる
  • 一人で腹五分目くらいまで食べる → お腹が空いたらすぐにまた腹五分目くらいまで食べる
  • 一人で腹八分目くらいまで食べる
  • 一人で満腹まで食べる

 自分のタイプを自覚したら、「どうしたら敢えて回避行動を手放して自分を不安な状況に置けるか」「どうしたら徐々に難易度が上がるか」を考えていきましょう。そして上記のようなスモールステップを組んで、段階的に実践していきましょう。

 必ずしも一度上げたレベルを下げてはいけない訳ではありません。調子が悪い時はレベルを下げてもOKです。レベルは上がったり、下がったりしながら徐々に高い方へと推移させていきます。

敢えての行動は全て認知行動療法

 認知行動療法は自分が苦手な場面に敢えて挑戦する治療法でした。もちろん会食や電車といった嘔吐恐怖症の不安がダイレクトに来そうな場面に挑戦するのが一番効果が高いですが、それ以外にも敢えて○○するという行動は全てが認知行動療法になります。

  • 今日は家で一日ゴロゴロしていたいと思ったけど、敢えて運動をする
  • 自分には出来ないと思っていたような趣味を敢えてはじめてみる
  • 会社の中で敢えて積極的に発言してみる

 このように潜在意識が「やめときなよ~」と言ってきそうな行動を敢えてしてみることで、潜在意識がどんどんポジティブな方へと変わっていきます。少しでもやった方が良いと思ったことは潜在意識の反発を気にせずにまずやってみることが重要です。

認知行動療法の壁

 認知行動療法自体はいたってシンプルです。潜在意識の不安に対抗して、スモールステップで逆の行動を取っていけば良いだけです。ですがここまでお読み頂いて「行動するのが大変なんだよ!不安に対抗するのが大変なんだよ!」と感じておられると思います。

 人間は恐怖を感じた時に以下の反応を示すことをお伝えしました。

  • 身体の変化 ← しんどい
    例:ドキドキ、冷や汗、ソワソワ、気持ち悪さ、吐き気、胃痛などの身体症状
  • 考え方の変化 ← しんどい
    例:「また気持ち悪くなったらどうしよう」「吐いたらどうしよう」「会食が出来なくなったらどうしよう」「誰かが吐いているのを見たらどうしよう」
  • 行動の変化
    例:会食を避ける、お腹いっぱい食べられない、電車に乗れない、夜の街に行けない、不安薬や胃薬を常飲する

 最終的な行動を変えていけば良いのですが、その前後には必ず不快な症状や不安が出てきます。ここを乗り越えるのがものすごく大変です。ここの症状の前に、行動を一番最初に変えていく必要があるのが大変です。ここが認知行動療法の難しいところです。

 ひとたび行動を起こそうとすれば、いろんな壁があります。「また気持ち悪くなったらどうしよう」「吐いたらどうしよう」という予期不安。恐怖のスイッチが入って、吐くことへのパニック。胃痛・吐き気・気持ち悪さなど様々な身体症状。そして認知行動療法が自分の思う通りに行かなかった時の「やっぱり自分は治らないんだ・・・」という行動後の落ち込み。

 つまり嘔吐恐怖症を治すには、認知行動療法を知るというよりも、いかにして不快な症状や不安をケアしていくかの方が大事なんです。そしてここはこのOPENERSが最も力を入れている部分でもあります。嘔吐恐怖症を克服するとはこの部分を学んでいくことと言っても過言じゃないんです。

 これらは病院や独力での克服ではなかなか見つからない視点です。 病院では認知行動療法を教えてもらえますが、そこでの症状や不安のケアについてまで、なかなか一度には教えてもらえません。(もちろん嘔吐恐怖症を正しく扱っている専門病院で、時間と予算をかけて何度もカウンセリングに通うと、教えてもらえるかもしれませんが)

 そして、いかにこの視点を早く身に着けるかも重要なポイントですね。でなければ「不安なのは自分だけだ」「自分に勇気が無いから、弱いから」とまた間違った考えにハマってしまい認知行動療法を挫折してしまうこととなります。

 いかにして認知行動療法の不快な症状や不安をケアしていくか ここに瞑想によるマインドフルネスやセルフコンパッションという最新の心理技術を活用していこうというのが、このOPENERSの最大のテーマであります。こちらは次章でたっぷりお伝えしていきますのでお楽しみに!

 コレだけはやろう

自分にとって今一番必要な認知行動療法は何か?スモールステップで分解して考えてみましょう。

認知行動療法とは不快な症状や不安をケアが重要であることを覚えておきましょう。

OPENERSが目指す理想の認知行動療法とは

 理想の認知行動療法とは、何の症状も何の不安も無く行えること、と思われている方もいるでしょう。

 しかし全く症状や不安が出ないなら、そもそも認知行動療法をする必要はありませんし、会食や外出といった行動をすれば嘔吐恐怖症の人でなくとも、少なからず疲労やネガティブな感情が出てきたりするものです。

 認知行動療法では分かりやすい結果を追い求める必要はありません。「会食で不安なく楽しく食べきれた」とか「いっさい気持ち悪さを感じないで電車に乗れた」などですね。もちろん最終的にはこのような状態に近づいていくのですが、最初から最終的な結果を追い求めてしまうと、思うような結果にならない時に「やっぱり自分はダメなんだ」と逆にダメージを負ってしまうことにもなりかねません。

 OPENERSが求める理想の認知行動療法は上記のような結果を求めるものではありません。分かりやすい結果が出るよりもむしろ、「不安があっても行動できた、結果が出なくても落ち込まずに前向きでいられた」というのが一番効果の出る認知行動療法です。

 認知行動療法をするとどんどん結果が出て、自信がついて治るのではありません。最初は結果が出なくて当たり前です。ですが不安があっても結果が出なくても、ちゃんと認知行動療法を続けられる、落ち込まずに前向きでいられると不安への耐久力もどんどん上がります。「結果が出なくても自分は落ち込まない」という意識が育ち、行動力も上がります。

 その結果、認知行動療法へのプレッシャーが減って取り組みやすくなり効果もどんどん高まります。そして最終的には私達が理想とするような状態に近づいていくのです。「不安があっても結果が出ない時も簡単に楽しく認知行動療法を続けられる」これを実現するための方法をOPENERSではお伝えしていきます。

今回のワーク

 今回のワークはこちらです。ワークに取り組むことで、このコンテンツを受講して自分がこれからするべき行動が具体化されるようになっています。具体化した行動は毎日の習慣としてください。